SharExperience

日々の暮らしで見つけた「誰かの役に立つかも」をつづります。

クリスマスの蝶より(3)

今週のお題「あの人へラブレター」

 

前談

前談(2)

 

店を出た私たちは、驚いた。

 

通りは人、人、人。

まるで夏祭りのようだった。

すぐ近くの川辺まで行こうとするも、道の向こう側に渡るのも一苦労。

若者が辺りを埋め尽くし、みんな手にスプレー缶を持っている。

 

なんとか人を押しのけ歩いていると、

 

「Merry Christmas!!!」

 

と言いながら、顔に向かってスプレーを噴射される。

パーティー用の泡が出るスプレーだった。

赤道直下では、これが雪の代わりということらしい。

 

 

通りすがりの若者に突然スプレーを吹き付けられ呆然とする私の顔を見て、

「Happy white Christmas!」

と、笑いながら彼は言った。

 

人の波のうねりは力強く、私は彼とはぐれないようにするのに必死だった。

幸いなことに青年は背が高く、少し離れてもすぐに見つけることができたし、

私が誰かに押されて前が見えなくなる度に彼は立ち止まり、

こちらに向かって手を上げて合図を送ってくれた。

 

日本でもクリスマスは本来の意味とはかけ離れているのかもしれないが、

この国ではさながら年末のスプレー祭りと言ったところだ。

 

その後も何度も何度も南国の雪を浴びてもみくちゃになりながら、

なんとか人通りの少ない川辺にたどり着いた。

 

汗だくだし、泡まみれだし、ロマンチックな雰囲気とは程遠い。

数十メートルしか歩いていないのに、

すっかり辟易した私たちはベンチに並んで座った。

 

「こんなクリスマスは初めて」

そう私が言うと、

「僕もだよ」

と言いながら、彼はポケットからハンカチを取り出して

私の髪についた泡を優しく払った。

いかにもバックパッカーという風貌の男性が、すっとハンカチを差し出す姿が

少し可笑しくて、少しときめいた。

 

 それから再び始まったのは、たわいのない、とりとめのない会話。

食事をしながら散々しゃべったはずなのに、話題は途切れることはない。

 

私は平凡な家庭に育ち、結婚した兄弟がいて、両親も東京に暮らしている。

彼は母子家庭で育ち、母親に対する愛情は絶大なものだった。

悩み事は何でも相談し、ほぼ毎日電話をするという、嫌味のないマザコン

 

「恋愛の相談もするの?」

と、私は聞いた。

「もちろん。でも、僕に女性について教えてくれたのは祖母なんだ」

家族の話をするときの彼の笑顔は、いっそう眩しかった。

そして、こう続けた。

 

「祖母は、女の子は手のひらにとまった蝶々だって教えてくれた」

 

つづく。