SharExperience

日々の暮らしで見つけた「誰かの役に立つかも」をつづります。

クリスマスの蝶より(4・終)

今週のお題「あの人へラブレター」

前談

前談(2)

前談(3)

 

「蝶?」

 

意味がわからず私は聞き返した。

 

「そう。素敵な人を見つけたら、こうしなさいって」

 

そう言って、彼は両手で大きなおむすびを握るような格好をした。

 

「女の子はこの手の中にいる蝶のようだと思えって。

 指の隙間がないと息苦しいだろうし、開きすぎていると逃げてしまう。

 蝶は美しくて繊細な生き物だから、優しく守ってあげないといけないよって」

 

 

ロマンチックな人だとは思っていたが、そんな英才教育を受けていたのか。

蝶よ花よと言うけれど、私は父にだってそんな扱いを受けた事はない。

なんだかクラクラしてしまった。

 

「とても素敵なおばあちゃんだね」

 

素直な感想だった。

 

「うん。本当に素敵な女性だったよ」

 

彼は満足そうに言った。

 

そして、そっと私の手を取った。

その手は大きく、あたたかかった。

嬉しくて、ちょっと恥ずかしい。

 

「さっきの人ごみの中でこうしてくれればはぐれなかったのに」

 

と、生意気なことを言うのが精一杯だった。

 

 

「本当はそうしたかったけど、

 せっかく見つけたきれいな蝶々に嫌われないか心配で、慎重になってたんだよ」

 

 

 

こうして私は生まれて初めて蝶に例えられるという経験をした。

 

それから私たちは、ネオンでキラキラ光る水面を眺めながら、

夜明けまで川辺のベンチで話した。

つないだ手を離すことも、宿に帰ることもできずに。

 

私は夜が明けたその日の午後一番の便で

日本へ帰らなければならなかった。

朝2人で宿に戻ると、いつもは愛想のいいオーナーに怪訝な顔をされた。

急いでパッキングをして、彼が空港まで見送ってくれた。

 

日本での再会を約束し、私たちは別れた。

翌週彼はタイへ行き、そこで風邪をこじらせて体調を著しく崩した。

旅を諦め、トルコに帰って1ヶ月も入院しなければならなかった。

結局彼が日本に来ることはなかった。

 

その後もしばらくメールやスカイプでやり取りをしていたけれど、

半年ほど経って自然に連絡が途絶えた。

 

 

あの旅で出会った彼へ。

 

今も時々、蝶を見るとあなたを思い出すことがあります。

 

元気かな、どこにいるのかな。

 

私は誰の手の中に収まることもなく(笑)、自由にふわふわしています。

 

また会いたいような、永遠に思い出にしておきたいような、

不思議な気持ちをずっと持ち続けています。

 

一緒にいたのは短い時間だったけど、素敵な思い出をありがとう。

 

どこにいてもお元気で。

 

クリスマスに南国で出会った蝶々より。

 

 

おわり。